プラスチック、本水牛、水牛“風”のボタン 見分けがつきますか?
の記事でもご紹介した通り、水牛のボタンも、プラスチックのボタンも、間近で見ない限り、なかなか素人には見分けがつかないものです。
ましてこれが、水牛“風”のボタンとあらば、余計に見分けは付きづらいかもしれません。
とはいっても、どんなお店でも、ある程度の水準以上のスーツには、水牛ボタンが推奨されますし、既製品でも、インポートものの生地でつくられたスーツなら、水牛ボタンが搭載されていることが多いです。
ほとんどの人にとっては見分けがなかなかつきづらいのに、どうしてこんなにも水牛が好まれるものなのでしょうか。
今回は、そんな疑問に対する考え方をお示ししていきます。
生地とのバランス
まず重要なのは、生地とのバランスです。
一般的に、ウール100%ではなく、ポリエステルも含まれるような、比較的安価な既製品のスーツの場合は、プラスチックボタンが標準仕様となっていることがほとんどですが、冒頭の通り、ある程度質の高い生地になってくると、水牛ボタンが搭載されていることが多くなってきます。
オーダースーツ店でも、ポリエステルも混ざっている記事の場合はともかくとして、インポート生地でそこそこ質の高いものになってくると、「ぜひ天然のボタンを!」ということで、水牛ボタンや、あるいはナットボタンなどが強く勧められることが多いです。
これは、つまるところは、「良い生地なら、それに見合ったボタンを搭載しよう」という、バランスの話なんです。
言うまでもなく、水牛をはじめとした天然のボタンには、独特の風合いがあり、やはりプラスチック製のものとは一味も二味も違います。
私のような素人が遠目で見ても判別はつかないにしても、やはり近くで見るとその存在感は違ってきますし、決して「目立たないパーツ」ではないのです。
そう考えると、極端な話、ゼニアやロロピアーナなどの高級生地のスーツなのに、ボタンだけが安価なプラスチック製だと、バランスがあまりにも悪いんです。
生地が良いからこそ、ボタンの“安っぽさ”が際立つようになりますし、周りから見ていて「あれ、ボタンだけ安いっぽいな」と気づくと、違和感を与えてしまいかねません。
スーツ全体の高級感に繋がる生地が良いものになれば、それに伴ってボタンも良いものにしようというのが、ある意味で原則なわけですね。
では、どのくらいの生地になると、プラスチックではなく水牛ボタンに切り替えるべきなのかというと、当然ながら明確な基準はありません。
そこで、私個人としての完全な主観を申し上げるなら、今の日本のスーツ市場において、「高品質」かつ「価格は抑え目」で、“2大定番イタリア生地”として出回っている、Vitale Barberis Canonico(カノニコ)とREDA(レダ)あたりが一つの基準になるでしょうか。
いわゆる「高級生地」の部類に入るブランドでありながら、非常にコスパが良いため、多くのスーツ店が導入していて、ロゴやタグをご覧になったことのある方も多いことでしょう。
例えばスーツカンパニーあたりなら、既製品で4、5万円くらいから購入できるラインだと思います。
インポートものの生地の中でも、カノニコ、レダくらいきちんとしたクオリティのものであれば、水牛やナットなどの天然ボタンにしておいた方が、全体のバランスが整うのではないかと思っています。
全体の雰囲気への影響
そしてもう一つ重要な要素は、水牛ボタンによる、「全体の雰囲気への影響」です。
何度も申し上げている通り、ボタン単体で考えると、他人が来ているスーツのボタンが天然ものかプラスチック製かなんて、よほど近くで見ない限り、素人にはなかなか判別がつかないことでしょう。
「本当は水牛の良いボタンを使っているのに…!」と、周囲に気づかれず歯がゆい思いを抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、別にそれでもいいのです。
なぜなら、「良いパーツは全体の印象に作用する」からです。
他人のスーツを見て、「良いスーツだな」「なんかかっこいいな」と思うときだって、ボタンをはじめとした細かい仕様まで踏まえてそう感じているわけではなく、ぱっと見の何となくの印象から、そう感じているわけですよね。
それは当然、生地やサイズ感によるところが大きいのですが、漂う高級感や気品というのは、それだけによるものではありません。
ラペルの太さや、ステッチの有無、ポケットの付け方、そしてボタンの品質など、そういった仕様が、それぞれがそこまで目を引くものでなくとも、全体の雰囲気には大きく作用してくるのです。
例えば、ラペルを広げれば、それを見て「あ、ラペルが広めだ」と感じる人は、オーダースーツに手を出している人でない限り、あまりいないでしょう。
ですが、多くの方がそのスーツを見て、なんとなく重厚感やクラシカルな印象を抱くはずです。
逆に、ラペルを細目にしていれば、それ自体には気づかずとも、どことなくモダンでシャープな印象を抱くはずです。
これと同じように、水牛の良いボタンをつけていると、「あ、水牛の良いボタンだ!」と気づかれることはなくとも、どことなく全体の気品に繋がり、良いスーツに見えてくるというわけです。
やはり、ボタンの王様、水牛ボタンが持つ独特の質感は、プラスチックでは再現ができないものであり、それが醸し出す雰囲気には、表現しづらいかっこよさがあります。
それが全体のスーツの雰囲気には、気づかずとも大きく作用しているものですから、やはりある程度良い生地でつくるスーツには、本水牛のボタンを採用した方がいいなと思うのです。
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