低価格帯のスーツにおいてよくみる、「ポリエステル50%・ウール50%」という混紡比率の生地。オーダースーツにおいてはスタートプライスの生地がこのくらいポリエステルを含むものが多いですし、あるいはイオンなどだと「ポリエステル100%」の生地も見かけます。
巷では、「ウールのメリット・デメリット」と同じように、「ポリエステルのメリット・デメリット」などと同列に語り、場合によっては「ウール100%より、ポリエステルを含んだ方が丈夫さが増して使いやすい」くらいのテンションで宣伝している発信もよく見かけますが、それらを見るたびに思うんです。
「ポリエステル混生地がウール100%生地より良いわけがあるか!」と。
今回はそんなお話です。
ポリエステル50%・ウール50%スーツの特徴
まずはポリエステルとウールを50%ずつ含む生地というのはどういう特徴があるのか、見ていきましょう。
ポリエステル生地の特徴
まず、ポリエステルは化学繊維であるだけに、耐久性が高い素材であることはたしかです。それゆえに、比較的しわになりにくいという利点もあります。
また吸水性が低く、速乾性があるともいわれます(スポーツウェアによく使われる理由です)。特に雨の日などには重宝すると言えるかもしれません。
一方で、機能面では、通気性があまり良くないというデメリットもあります。天然素材だと、ある程度は「暑い時に放熱、寒い時に吸熱」という効果があるものですが、化学繊維(特にスーツに使われる素材)だとこうした機能はなかなか持ち合わせることができないわけです。
ただ何より重要なのは、その見た目でしょう。スーツ生地に求めるものの優先度はもちろん人によって違うとは思いますが、「良いスーツをつくりたい」と思うほど、上品な艶感や、独特な質感など、見栄えの良いものを重視されるはずです。
これがウールなどの場合は天然ものならではの自然な光沢感などがあるものですが、化学繊維にそれは表現できません。無理に光沢を出そうとすると“わざとらしい”感じがしてしまいますので、基本的にポリエステルを含む生地は光沢がほとんどないようになっています。
また、使い込んでいくと、化学繊維がこすれてテカりが出てしまうことも。
つまりは、スーツの機能面の向上には寄与しても、見た目のエレガントさとは対極な意味を持つものだといっていいでしょう。
ポリエステルを混紡するメリット・デメリット
上記の話にも繋がりますが、例えば「ウール70%・ポリエステル30%」など、ポリエステルを生地に混紡することで、耐久性の向上させたり、しわになりにくくしたりする効果はあるでしょう。ウール100%、特に「スーパー130」など細い糸でつくられている生地の場合、その耐久性はかなりもろいのです…。スーツは「高ければ丈夫」というものではないんですね。
その意味では、ポリエステルを含むことで、日常的にガシガシ使えるスーツになるというメリットはあるといっていいのではないでしょうか。
「ポリエステル50%・ウール50%」の割合が多い
ポリエステルが混ざった生地において、その割合はもちろん生地によります。ほんの数%だけポリエステルを含んでいることもあれば、70%、あるいは100%ポリエステルの生地というのもあります。
その中でも、ウールとポリエステルを50%ずつ含む生地というのは、特にオーダースーツのスタートプライスによく採用されている印象です。
例えばユニバーサルランゲージやグローバルスタイル、DIFFERENCE、SADAなどの大手どころは、だいたいウール50%・ポリエステル50%の生地を2万5000円あたりから仕立てられるというのが相場になっています。
参考:SADA、Global Style…1着2万円台の格安オーダースーツ店を比較 「有料オプション」と「芯地」に注意!
ポリエステル50%・ウール50%の生地が多く見られる理由は、コストと機能性のバランスということでしょう。価格を抑えつつも品質を維持しようという中での相場なのだと思われます。実際、ポリエステル100%の生地というのはなかなか着られたものではありませんが、ウールを50%くらい含むようになると、それなりに“ウール見え”するようになってきます。
↑ユニバーサルランゲージでつくったウール50%・ポリエステル50%のスーツ
「ポリエステル混生地の方が良い」なんてことはあるのか
と、ポリエステルという素材をめぐるあれこれについて述べてきましたが、いくらメリットがあるとはいえ、わざわざ好んでポリエステルを含む生地を選ぶ人なんているのでしょうか……。
基本的には安いスーツにつかわれる素材
まず前提として、ポリエステルという化学繊維は、原料が限られ、また製品化するのに手間もお金もかかる天然素材とは違って、圧倒的に安く大量生産できるというものです。そのため、スーツ生地においても、ポリエステルが安く、ウール(ほか天然素材)が高いというのが、ほとんど例外のない大原則だと思っていただいて問題ないでしょう。
まれに、耐久性や丈夫さなどをアップさせるため、ほんの数%だけ化学繊維を“意図的に”混ぜている生地もあります。
しかし、世に溢れている、ポリエステルを数十%以上含んでいる生地というのは、「耐久性」のためにそのような作り方をしているわけではありません。単に「生地代を安く抑える=ポリエステルを多く含む」というだけのことであって、“耐久性うんぬん”は、その生地をアピールするために後付けで言っていることに過ぎないのです。
「ウールのメリット・デメリット」「ポリエステルのメリット・デメリット」などと、まるで「ウールとポリエステルそれぞれに良いところと欠点がある」かのように発信しているお店もありますが、それはコストを抑えた生地にもメリットがあるように見せたいだけと言っていいでしょう。
あるいは、ポリエステルを含む生地の価値を高く見せるために言っている可能性が高いです。
決してポリエステルを含む生地を全否定するつもりはありません。私もそのような生地のスーツを何着も持っています。ポリエステルを含むことによって実際に丈夫さは上がるのも事実でしょう。
しかし、あくまでも「安いからポリエステルが含まれている」という大前提があることは、理解しておくべきだと思うのです。
↑はじめてつくったオーダースーツ。ポリエステル50%を含む、1着2万5000円の生地。けっこうウール見えする?
ウール100%よりポリエステル混生地を優先する理由はない!
ですから、同じ価格であれば、ウール100%の生地と、ポリエステルを50%含む生地を選択肢として提示された場合、いくら耐久性を重視したいという方でも、ポリエステル側を選ぶのはさすがにやめましょうという話です。
もちろん、一般的にはポリエステル混生地の方が安く売られていますから、「安い上に丈夫でガシガシ使える」というメリットを感じてそちらを購入するのは良いと思うのですが、世間では、ポリエステルを50%以上含みながらも、「ポリエステルを含むので丈夫!」などと言ってそれなりの価格で販売しているお店がけっこうあります。※参考:「カシヤマ・麻布テーラー・ファブリックトウキョウの生地比較」
こういう場合は、その宣伝文句を鵜呑みにせず、市場価値としてはウール100%の方がはるかに上であることをいったん冷静に考えてから判断するようにしましょう。既製品であれば、3万円程度からウール100%のスーツが買えますし、オーダースーツだって、4、5万円くらいからウール100%の生地で仕立てられたりします。いくつかのお店を比較することで、こうした「相場」もわかってくるはずです。
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